明治大学名誉教授 福田邦夫
豚肉は想像を絶するような残酷な方法=『妊娠ストール』で「生産」されている。わたしは『妊娠ストール』の使用に強く反対する。豚に限らず、全ての生き物には、人間と同じく、喜怒哀楽の感情があるからだ。
吉田兼好は、今から700年も昔、『徒然草』(128段)で次のように述べている。
「生きとし生けるもの全て、鳥や獣、虫けらまでも、よく観察してみると、子を想い、親を慕い、夫婦で寄り添い、嫉妬し合い、逆上し、欲張り、防衛本能が働いている健気な姿は、単純な脳味噌なだけに、人間よりもずっと素直である。そんな動物を、いたぶり殺しても平気だとすれば異常でしかない。全ての心ある動物を見て優しい気持ちになれないとしたら、人間ではない。※」
多くの人々の心には、古より「ものの憐れ」という心が宿っていた。だが高度経済成長期を迎えた1960年代中頃から、他人や生き物の心を思いやる優しい気持ちが消えてしまった。そして豚や牛、鶏等のほとんどの生き物は、お金を生み出すマシーンに作り変えられてしまった。雌豚は、生まれてから屠殺されるまでの短い生涯、妊娠と出産を繰り返すマシーンに作り変えられてしまった。その典型が『妊娠ストール』と『分娩ストール』だ。
人々もまた巨大な産業マシーンに組み込まれ、経済的利益のみを追求するロボットになってしまったかのようだ。だが静かに耳を傾ければ、生き物からの悲痛な叫び声が聞こえてくる。
※『徒然草』 吉田兼好著・吾妻利秋訳 https://tsurezuregusa.com/121dan/