妊娠ストールとは
母豚は一生のほとんどの時間を「ストール」あるいは「クレート」と呼ばれるものに閉じ込められて過ごします。母豚たちの受胎・流産の確認や給餌管理がしやすいという理由で用いられるこのストールですが、ここで豚たちはすべての自由を奪われます。一頭一頭が別々閉じ込められ、方向転換すらできません。 諸外国では使用が禁止されています、日本における使用率は91.6%にものぼります。
妊娠ストールのサイズは、豚の大きさそのものであり、豚たちは座る・寝る・立つ以外はできず、体をひねったり転回することはできません。寝ることはできますが、自分の好きな形で体を横たえることはできません。
個別の檻での単飼いのため、ほかの豚と親和関係を結ぶこともできません。
豚たちは自然界であるなら母豚を中心に群れを作って仲間とともに生活する生き物です。しかし1頭1頭別々に檻に閉じ込められた豚たちに、それはかないません。
養豚農家の中には、「豚は食っちゃ寝食っちゃ寝してれば幸せなんだ」そんな風に言う人もいます。でもそれは違います。
イリノイ大学では、方向転換が可能なサイズの単飼の囲いで豚を飼育した研究が行われています。餌を食べるのに方向転換する必要がある豚房と、必要がない豚房が用意されましたが、どちらで飼育された豚も方向転換する回数は同じだったそうです。食べて寝るだけで豚は満足できる生き物ではありません。豚は動きたいのです。
ストールの中では「巣作り」もできません。
屋外で飼育されている豚は、分娩のすぐ前に枝や草を使って精巧な巣を作ります。ストール飼育で巣作りができない母豚も「巣作りの真似事」をします。分娩前には非常に活動的になり巣作りやルーティング(鼻で地面を掘る行動)のような巣作り動作に何時間も費やします。そのような行動により顔に擦り傷を作ったりもします。しかしストールの中で巣が完成することは決してありません。
巣作りも方向転換も、仲間と親和関係を結ぶことも、何もすることもできないこの檻の中で、メスの豚たちは、口の中に食べ物が入っていないのに口を動かし続けたり、水を飲み続けたり、目の前の柵をかじり続けたりという異常行動を起こすことが知られています。